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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)8168号 判決

原告

林順子

被告

大西物流株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金三七万二〇九〇円及びうち金三二万二〇九〇円に対する平成六年七月三〇日から、うち金五万円に対する平成一〇年六月一二日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、金五〇六八万円及びうち金四六〇八万円に対する平成六年七月三〇日から、うち金四六〇万円に対する平成一〇年六月一二日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成六年七月二九日午後五時四五分ころ

(二)  場所 兵庫県神戸市須磨区東須磨第二神明道路上り〇・七キロポスト

(三)  加害車両 被告安田義晴(以下「被告安田」という。)運転の大型貨物自動車(愛媛一一き三五四四)

(四)  被害車両 下岡智子(以下「下岡」という。)運転、原告同乗の普通貨物自動車(神戸四一せ四〇四〇)

(五)  態様 被害車両が前記道路の須磨料金所から神戸方面に向け上り車線を進行中、折から月見トンネル内で渋滞中のため被害車両が減速徐行していたところ、加害車両が玉突き追突した。

2(責任)

(一)  被告安田に対しては民法七〇九条

(二)  被告大西物流株式会社(以下「被告大西物流」という。)に対しては民法七一五条、自動車損害賠償保障法三条

3(傷害、治療経過)

(一)  原告は、本件事故により、頭部外傷、頸部捻挫、前額部皮下血腫、外傷性頸肩腕症候群、大後頭三叉神経症候群、瘢痕拘縮(左上眼瞼から額部)、顔面打撲、遠視、乱視、老視、眼球打撲、眼精疲労、眩暈症、左耳鳴、混合乱視、調整衰弱等の各傷害を負い、次のとおり治療を受けた。

〈1〉 高橋外科

平成六年七月二九日通院

〈2〉 医療法人栄昌会吉田病院

平成六年七月二九日から同年九月一日まで入院三五日間

平成六年九月二日から同月九日まで通院(実通院日数四日)

〈3〉 医療法人順専会白藤診療所

平成七年九月一一日から平成八年一月三一日まで通院(実通院日数三六日)

平成八年六月一日から同年八月三一日まで通院(実通院日数一八日)

〈4〉 佐野形成クリニック

平成六年九月二日から同年一一月一日まで通院(実通院日数八日)

〈5〉 医療法人庸愛会富田町病院

平成六年九月一一日から同年一〇月五日まで通院(実通院日数七日)

〈6〉 医療法人庸愛会木村クリニック

平成六年九月一三日から同月二九日まで通院(実通院日数一三日)

〈7〉 医療法人進愛会深井病院

平成六年一一月一四日通院

平成八年五月九日通院

〈8〉 医療法人仙養会北摂病院整形外科

平成六年一〇月一日から平成九年五月二一日まで通院(実通院日数三八〇日)

〈9〉 医療法人仙養会北摂病院眼科

平成七年一月一日から同年一一月三〇日まで通院(実通院日数一八日)

平成八年一月一日から同年七月三一日まで通院(実通院日数九日)

平成八年一一月九日から平成九年五月二一日まで通院(実通院日数三日)

(二)  原告は、現在も北摂病院の整形外科と眼科にて治療を受けているが、もはやこれ以上の回復はあまり望まれない状態で、体力の衰えと視力低下により一人で自転車に乗ることもできなくなり、病院通いや買物その他の日常生活は専ら原告の兄村田一夫の介護により毎日を過ごしている。

4(後遺障害)

原告の本件事故による後遺障害は、次のとおりである。

(一)  一眼の視力が〇・〇六以下になっており、後遺障害等級九級二号

(二)  神経系統の機能、精神の障害、女子の顔面醜状障害により、後遺障害等級一二級

5(損害)

(一)  治療費 二四万三一二〇円

(1) 北摂病院整形外科 二万一三〇〇円

(2) 北摂病院眼科 一万二五三〇円

(3) 北摂病院 三二三〇円

(4) エムケー薬局 一万二〇七〇円

(5) 島津医院 七万六四八〇円

(6) 島津医院 八万九八六〇円

(7) 島津医院 二万七六五〇円

(二)  付添看護料 一七万五〇〇〇円

1日5000円×入院35日=17万5000円

(三)  入院雑費 四万五五〇〇円

1300円×35日=4万5000円

(四)  通院交通費 二三万八二九一円

(1) タクシー代 二万六九七〇円

(2) ガソリン代 一八万九三二一円

(3) 高速道路料金 二万二〇〇〇円

(五)  休業損害 七二七万九五九九円

(1) 入院中

六〇ないし六一歳の平均年収二五八万七二〇〇円(二一万五六〇〇円×一二か月)

258万7200円÷365日×35日=24万8087円

(2) 通院中(平成六年九月二日から平成九年五月二一日までの二年五か月)

〈1〉 平成六年九月二日から平成八年九月一日まで

258万7200円×2年=517万4400円

〈2〉 平成八年九月二日から平成九年五月二一日まで

258万7200円÷365日×262日=185万7112円

(六)  入通院慰謝料 三〇〇万円

入院三五日、通院九九二日(三二・五か月)(実通院日数四九三日)

(七)  逸失利益 七六七万一一七七円

一二級(神経系統の機能、精神の障害、女子の顔面醜状障害)

九級(視力障害、一眼の視力が〇・〇六以下の場合)

併合八級

258万7200円×0.45×6.589=767万1177円

(八)  後遺障害慰謝料 二八一九万円

(1) 前記後遺障害による慰謝料八一九万円

(2) 呼吸器の後遺障害が本件事故によって悪化したことによる慰謝料二〇〇〇万円

原告の呼吸器については、本件事故前の平成六年一月三一日付で労災保険による障害等級二級の保険給付を受けていたが、本件事故により更に症状が悪化し、大阪府より呼吸器機能障害(三級)バス介護付身体障害者手帳を受けることになったのである。

労災の二級と身体障害者手帳の三級との間にどのような考え方の相違に基づくものなのか所轄庁が違うためその見解はさだかではないが、原告が呼吸器について後遺症二級(または三級)の傷害を受けていることは事実である。

本件事故が呼吸器に与えた影響は更に強度のものであったため、その被害は更に増大し、現在、原告の近くに住んでいる実兄村田一夫方に身を寄せ、衣食住すべて同人の介護によって生活している有様である。

原告は、本件事故の早期解決のため、呼吸器(増悪分)についての後遺障害逸失利益も慰謝料算定の資料として考慮することにとどめることとした。

(九)  物損(メガネ) 六万一四六二円

二万五〇〇〇円

三万六四六二円

以上合計 四六九〇万四一四九円

(一〇)  損益相殺 八二万三四一〇円

四国交通共済からの支払

(一一)  弁護士費用 四六〇万円

よって、原告は、被告安田に対しては民法七〇九条、被告大西物流に対しては民法七一五条、自動車損害賠償保障法三条、に基づく損害賠償として、金五〇六八万円及び弁護士費用を除く金四六〇八万円に対する本件事故の日の翌日である平成六年七月三〇日から、弁護士費用金四六〇万円に対する平成一〇年六月八日付請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日である平成一〇年六月一二日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3(一)のうち、原告が〈1〉ないし〈9〉記載の入通院治療を受けたことは認め、その余は知らないないし争う。

右治療には本件事故に起因しないものが多いばかりでなく、本件事故に起因すると思われるものについても、その治療は過剰と言わざるを得ない状況にある。

同3(二)は知らないないし争う。

3  同4は争う。

後遺障害については、自賠責保険において、次のとおり、非該当の認定がなされている。

(一) 頭痛、左顔面痛、頸部痛、左上肢しびれ感、耳鳴等の訴えについての資料を検討の結果、頭部、頸部に外傷性病変はなく、また、対症療法を中心とした治療経過からも愁訴と考えられ、自賠法上の後遺障害とは捉えがたい。

(二) 眼の障害は治療経過上、両眼精疲労とは捉えがたい。

(三) 左開瞼障害も、その裏付けとなる所見はない。

(四) 顔面醜状について、左前額部の一センチメートルの瘢痕は自賠責上の認定に至らない。

眼については初めて訴えがなされたのは、平成六年一〇月八日であり、仮に何らかの障害が存するものとしても、本件事故と因果関係があるとは考えられない。

4  同5(一〇)は認め、その余は争う。

原告は、平成六年一月三一日、労災保険により後遺障害二級二号(胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)の認定を受け、就労しておらず、将来についても就労することが不可能であったから、休業損害及び逸失利益は発生しない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)、2(責任)は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(傷害、治療経過)

1  証拠(甲四ないし二〇、七九の1、2、八九の20ない23、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故により、頭部外傷、頸部捻挫、前額部皮下血腫、外傷性頸肩腕症候群、大後頭三叉神経症候群、瘢痕拘縮、顔面打撲の傷害を負ったこと、原告の頸椎についてはX線、MRI所見上異常は認められず、自覚症状のみであること、原告は、本件事故以前である平成六年一月三一日、労災保険により慢性呼吸不全に関して後遺障害等級二級二号(胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)の認定を受けていることが認められる。

2  原告が次のとおり入通院治療を受けたことは当事者間に争かがない(本件事故と治療との間の因果関係については争いがある。)。

(一)  高橋外科

平成六年七月二九日通院

(二)  医療法人栄昌会吉田病院

平成六年七月二九日から同年九月一日まで入院三五日間

平成六年九月二日から同月九日まで通院(実通院日数四日)

(三)  医療法人順専会白藤診療所

平成七年九月一一日から平成八年一月三一日まで通院(実通院日数三六日)

平成八年六月一日から同年八月三一日まで通院(実通院日数一八日)

(四)  佐野形成クリニック

平成六年九月二日から同年一一月一日まで通院(実通院日数八日)

(五)  医療法人庸愛会富田町病院

平成六年九月一一日から同年一〇月五日まで通院(実通院日数七日)

(六)  医療法人庸愛会木村クリニック

平成六年九月一三日から同月二九日まで通院(実通院日数一三日)

(七)  医療法人進愛会深井病院

平成六年一一月一四日通院

平成八年五月九日通院

(八)  医療法人仙養会北摂病院整形外科

平成六年一〇月一日から平成九年五月二一日まで通院(実通院日数三八〇日)

(九)  医療法人仙養会北摂病院眼科

平成七年一月一日から同年一一月三〇日まで通院(実通院日数一八日)

平成八年一月一日から同年七月三一日まで通院(実通院日数九日)

平成八年一一月九日から平成九年五月二一日まで通院(実通院日数三日)

3  前記認定の原告の傷害の部位、程度及びその症状に原告の慢性呼吸不全の既往症を併せ考慮すると、原告の入通院治療で本件事故と相当因果関係が認められるのは、本件事故から六か月経過した平成八年一月三一日の白藤診療所の治療までとするのが相当である。

なお、この間の北摂病院での治療は、白藤診療所等での診療と並行してなされている点で過剰であり、また、原告が眼の症状を訴え始めたのは平成六年一〇月八日のことであって、本件事故から二か月余を経過していること、眼の症状を訴え、その治療に当たったのは北摂病院のみであり、眼の症状と本件事故との相当因果関係を認めるには至らないことからして、本件事故と相当因果関係のある治療と認めるには至らない。

三  請求原因4(後遺障害)

前記認定のとおりであり、原告に本件事故による等級該当の後遺障害を認めるには至らない。

なお、原告には、前額部に一センチメートルの瘢痕が残った。

四  請求原因5(損害)

1  治療費

前記認定のとおり、北摂病院での治療と本件事故との因果関係を認めることはできず、その余の治療費の請求も本件事故と因果関係が認められないから、治療費の請求は理由がない。

2  付添看護料

原告の入院期間中、付添看護を要したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

3  入院雑費 四万五五〇〇円

当事者間に争いがない。

4  通院交通費

前記認定の本件事故と相当因果関係のある治療期間について要した交通費を示す的確な証拠はない。

5  休業損害、逸失利益

前記認定のとおり、原告は平成六年一月三一日、労災保険により後遺障害等級二級二号(胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)の認定を受け、以後就労しておらず、将来についても就労する蓋然性を認めることはできないから、休業損害、逸失利益の請求は理由がない。

6  入通院慰謝料 一〇〇万円

前記認定の本件事故と相当因果関係のある入通院状況からすると、原告の入通院慰謝料は一〇〇万円と認めるのが相当である。

7  後遺障害慰謝料 一〇万円

原告には等級該当はしないものの、顔面に醜状痕が残っていることからすると、原告の後遺障害慰謝料として一〇万円を認めるのが相当である。

なお、島津医院医師幸寺恒敏作成の平成九年一月二七日付報告書及び同年六月三〇日付診断書には、本件事故後肺機能障害が進行したようであり、本件事故による可能性が指摘されているところであるが、右は可能性を指摘するに止まり、前記認定の入通院治療中には肺機能障害の進行についての所見は全く見当たらず、他に本件事故により原告の呼吸器の症状が増悪したことを認めるに足りる証拠はない。

8  物損(メガネ代)

原告は、平成六年一二月一一日及び平成七年七月二四日購入のメガネ代金を請求するのであるが、これと本件事故との因果関係を認めるに足りる証拠はない。

9  以上合計 一一四万五五〇〇円

10  損益相殺 八二万三四一〇円

当事者間に争いがない。

そこで、前記一一四万五五〇〇円から右八二万三四一〇円を控除すると、三二万二〇九〇円となる。

11  弁護士費用 五万円

五  よって、原告の請求は、金三七万二〇九〇円及びうち弁護士費用を除く三二万二〇九〇円に対する本件事故の日の翌日である平成六年七月三〇日から、うち弁護士費用五万円に対する本件事故後である平成一〇年六月一二日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

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